※1 現 日立産機システム 習志野事業所

株式会社 日立産機システム
インフラシステム統括本部
ドライブシステム事業部
制御システム設計部
部長 伊藤和広
日立インバータが開いた省エネルギー化と自動化の扉
インバータは、交流を直流に換え、さらに用途に応じた電圧・周波数の交流に変換することで、三相誘導電動機(以下、モータ)の回転数やトルクを自在に制御することができます。ポンプを例にとれば、以前は弁による水量調節が一般的でしたが、インバータにより直接回転数を制御することで損失を抑え、高効率化と省エネルギー化を実現しました。一方、制御しやすい直流モータは、工場内のホコリや湿気に弱いということもあり、幅広い産業分野でモータを自在に制御できるインバータが使われるようになったのは、当然のことでした。日立では、幅広い用途で使えるインバータ開発へのニーズに応え、1979年、最初のインバータ「SFC-T5」を市場に投入しました。
初期のインバータは、ポンプやファンの省エネルギー運転を可能とし、その後、クレーンやホイスト、コンベアなどの搬送・荷揚げ分野の自動化・省力化などに貢献するようになりますが、その背景には、電流を高速でON/OFFするスイッチング素子の大容量化や高周波化、ソフトウェアの進化を可能としたマイコン(マイクロコンピュータ)の高性能化、インバータ制御技術や回路技術の高度化により実現した、小型化、高応答化、高出力化がありました。
参考:「創業精神を受け継ぐモータ・インバータ技術 日立における産業機器技術の歩み」「特集 多様化するニーズにこたえるインバータ技術」
(いずれも日立評論)

1979年に商用化された「SFC-T5」

「SFC-T5」の内部
デジタル制御がもたらした飛躍的な進化
初号機が登場した当時は、すでに市場には先行メーカーの製品が存在していたことから、日立は制御技術の進化と信頼性向上を軸に、開発を加速します。1980年代に開発された「HFC-VWS3」では、モータの速度制御における多段速運転や加減速を含む多様な速度パターンの実現を図るため、アナログ制御からデジタル制御、つまりマイコンを使った制御面のソフトウェアを開発。これがインバータの進化を牽引しました。また、大きな出力のモータに対応できるインバータの開発ニーズが高まり、大容量化も推進。「SFC-T5」が駆動制御できたのは、出力3.7kWのモータでしたが、「HFC-VWS3」では100kW超のモータを動かすことができるまでになりました。
しかし、可変速運転自体は実現できても、負荷が変動した際に安定してトルクを発生し続けることは容易ではありませんでした。この壁を乗り越える転換点となったのが、「HFC-VWA」に搭載されたセンサレスベクトル制御です。この方式では、モータ定数と電圧・電流情報から回転速度を推定し、磁束とトルクを独立して演算制御します。速度センサを用いずに、高精度なトルク制御と低速域での安定性、高い始動トルクを実現させました。
より高度でスマートな インバータへ
1990年から2000年代にかけては、独自に開発した高機能パワーモジュールの進化もあり、「J100」「J300」「SJ100」「SJ300」と続くシリーズでは、インバータ制御技術とともに小型化、メンテナンス性の向上なども実現。同時に、通信機能の強化とともに、UL、CEなど海外規格への適合を進めることで、欧州・北米市場への展開を本格化。2003年には、中国 南京市に生産拠点を設立し、グローバル供給体制を強化しました。
1979年の初号機から続く技術の蓄積は、今なお進化の途上にあります。受け継いだ技術資産と開拓者精神を基盤に、次世代の産業を支えるインバータのさらなる高度化に挑み続けます。


社会インフラ、産業インフラを支える
駆動制御技術の進化を担う
多機能化と制御精度を向上させつつ、直感的で簡単に設定ができる操作性の実現と
グローバル市場にも対応した安全性・信頼性により、
業界におけるアドバンテージを獲得した日立インバータ。お客さまのご期待に応え、
信頼性と効率的な制御技術、さらなる環境性能の向上をめざして技術革新を続けていきます。
株式会社 日立産機システム インフラシステム統括本部
ドライブシステム事業部 統御システム設計部 インバータ開発グループ
■ 堀田和茂 グループリーダ主任技師
■ 田邉啓輔 主任技師
技術進化の到達点を示す、 WJ-C1とSJ-P1
田邉 1979年、日立にとって最初のインバータ「SFC-T5」が市場に投入されてから、歴代の日立インバータは産業界の省力化・自動化、省エネ化に貢献してきました。この間、アナログ信号による制御からデジタル制御へと大きく変化したことで、操作は格段に簡単になり、機能面では低騒音、高始動トルクを実現するとともに小型化も進みました。
堀田 現在、日立インバータは、私たちが中心となって設計した小型高機能インバータである「WJシリーズC1」(以下、 WJ-C1)と高機能インバータ「SJシリーズP1」(以下、SJ-P1)を主力機種として展開しています。これに高周波インバータなどを加え、幅広いラインアップを構成しています。ここに至るまでには、先輩方の大変なご苦労があったと思います。
小曽根 WJ-C1とSJ-P1は、私たちのインバータ技術の現時点での集大成と言える製品です。WJ-C1では、設定を直感的に操作できるJOGダイヤル、高速スイッチング用のパワーモジュール(IGBT)の自己寿命診断機能、モータを稼働させることなく各機能をシミュレーションできる機能、負荷側の異常やアプリケーションの異常を察知・診断できる機能などを実現するとともに、筐体にリサイクル樹脂を採用したこともぜひ注目していただきたいポイントです。
堀田 インバータのソフトウェアには3つの領域があります。駆動制御の仕組みに関わるソフトウェア、さまざまな機能を実行・制御するソフトウェア、お客さまの工場の情報・通信基盤に対応したさまざまな通信プロトコルや、品質・安全に関する国際規格に対応したソフトウェアです。この3つをハードウェア開発チームと連携して開発してきました。
小曽根 WJ-C1より早く市場に投入されたSJ-P1では、直感的に使えるカラー液晶操作パネルを搭載したことや、モータを選ばず省エネ・省コストを実現する制御技術を実装したことが大きな特長です。液晶操作パネルは、各種パラメータの設定やトリップモニタにおいて、コードではなく日本語で表示できるため、分かりやすく使いやすいとご好評をいただきました。また、最高周波数590Hzの高速回転を実現したことで、精密加工分野で使えるようになったことも、前継機の「SJ700」と比べて大きく進化したポイントです。
堀田 WJ-C1では、IGBTの自己寿命診断機能の実装に力を入れました。これは前継機の「WJ200」から進化させた機能であり、定速運転だけでなく、通常運転や回生運転でも劣化の程度を診断できるもので、効率的なメンテナンスを実現するとともに、生産ラインの突然の停止という重大なリスクを防ぐことができます。ソフトウェア開発チームとハードウェア開発チームのシナジーから生まれた大きな成果です。
田邉 従来は、コンデンサや冷却ファンなどの劣化度合いを算定していましたが、電流と電圧の信号から損失や温度を計算し、リアルタイムで演算しながら寿命を算定します。この機能の精度は他社を上回っていると自負しています。

株式会社 日立産機システム
インフラシステム統括本部 ドライブシステム事業部
戦略企画部 企画グループ グループリーダ部長代理
小曽根孝道
インバータ市場を 牽引するグローバルモデル
堀田 WJ-C1は、北米向けのUL、欧州向けのCEそれぞれの適合認証を取得していますが、特に機能安全の信頼性を強化し、前継機のSIL2より高いレベルのSIL3へ対応させました。これらの対応は、当社やセットメーカー様の海外展開を円滑にするための取り組みです。
田邉 現行機種では、始動トルクや低周波運転時の出力特性、急激な負荷変動に対する応答性能を高めています。また、負荷側のモータが異なっても、モータの特性をインバータが自動で計測・記憶し、最適な駆動制御を実現するオートチューニング機能により、面倒な設定をすることなく、モータの性能を最大限に引き出すことができます。「あのモータだったらうまく制御できるのに、このモータではうまくいかない」という現場の声が開発のきっかけでした。
堀田 ソフトウェアでは、SJ-P1の前継機から他社に先駆けてEzSQ(イージーシーケンス)というプログラム運転機能を導入したことで、お客さまが独自の動作プログラムを組めるようになりました。また、インバータ同士で通信ができるEzCOM(イージーコム)を組み合わせると、上位装置がなくても、インバータだけで複数台のプログラム運転ができるようになりました。他社と比較すると、プログラム容量が大きいことが当社製の強みです。また、SJ-P1のカラー液晶操作パネルを日本語、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語を含め、11ヵ国語に対応させたことは、大きな成果だと思います。

「HFC-VWS3」(左)と「SJ100」(右)
小曽根 1986年発売の「HFC-VWS3」の体積を100とすると、1992年の「J100」はその約2分の1、1998年発売の「SJ100」はさらにその半分と、一貫して小型・軽量化を追求し続けてきました。しかし、インバータが普及するに従い更新需要が増え、制御盤に設置してある既設のインバータと簡単にリプレイスできるように、取付寸法を変えることなく、体積や質量を可能な限り小さくする努力を重ねてきました。それまでのインバータに比べて、多くの機能が増えたにもかかわらず、従来の寸法に収めることができたのは、設計チームの苦労のたまものですね。

ソフトウェア開発の可能性を語る堀田
インバータの さらなる進化をめざして
小曽根 モータを使うことで消費される電力は、日本の全消費電力量の約55%、産業用モータによる消費電力量は、産業部門の消費電力量の75%と推定※されていますので、モータの駆動制御に欠かせないインバータが進化すれば、さらなる省エネに直結するはずです。
※ 出典:一般社団法人日本電機工業会 「トップランナーモータ 2015年度スタート!!」
田邉 開発に向けては、次世代のスイッチング素子や、ソフトウェアの機能を決定づけるマイコンの進化も欠かせません。小型化の追求や、どこでも使えるようにするために耐環境性の向上も引き続き重要です。さらに、カーボンフットプリントが重視される中、インバータの生産段階におけるCO2排出量の削減や、グリーンな材料の積極的な導入を検討していきます。まずは、モータを駆動する時の電流変換ロスに目を向けたいと思っています。
堀田 これまではモータを動かすだけで省エネに貢献していると評価されてきましたが、今後は、インバータのライフサイクルにわたる脱炭素の取り組みが必要ですね。また、つくりやすさに加えて解体や分解しやすくすることは、メンテナンス性の向上や再利用率の向上につながると考えます。これまでも重要な取り組みであった、国際規格、機能安全、化学物質規制などへの対応は、今後もより厳格なものになっていくと想定しています。
加えて、サーキュラーエコノミーの実現に貢献することも求められていきますので、これまでの成果に満足するのではなく、国内外の大きなトレンドや、お客さまの要求に応えつつ、新たなテーマに挑戦していきたいですね。
田邉 従来機種ではハードウェア側で実現できていた機能が、ソフトウェアによってコントロールできるようになってきています。インバータの上位にある生産システムやIoTプラットフォームとの連携や統合といった、ネットワーク上のつながりも進化していくことが考えられます。また、インバータをつなぎやすくするためには、よりシンプルな機構でつなげていくことが求められると考えています。

次世代インバータ開発にかける夢を語る田邉
技術資産を活かし、 次のステージをめざす
田邉 当社では、数多くの成功と失敗の経験が技術資産として蓄積され、設計品質を向上させ、新しい課題に積極的にチャレンジできる環境をつくってきたと実感しています。
小曽根 特に、品質検査、品質保証に関わる技術資産は多く、例えば電子機器が発するノイズに関する試験では、国際規格に加えて当社独自の厳しいノイズ試験の実施が設計基準としてルール化されています。今の設計者は、このルールのおかげで、ノイズ対応に関しては決められた通りにすれば大丈夫だと自信を持っているのではないでしょうか。
堀田 新たな開発の着眼点や方向性は、日立インバータをお使いのお客さま自身が気づいていない価値の中から生まれてくることもあります。そのために、インバータの先にある既設の設備機器や生産システムとのつながりを可視化することで、隠れた可能性を見つけていきたいと考えています。

インバータ技術の可能性を拓く
「Grid Forming Inverter」搭載の
習志野事業所実装システム
小曽根 インバータ技術は、応用範囲が広がっています。すでに習志野事業所では、次世代のパワーコンディショナ「Grid Forming Inverter」が、2025年4月から運用されています。「Grid Forming Inverter」は、再生可能エネルギー発電の普及とともに不足が見込まれる「慣性力」を疑似的につくり出す機能と自ら系統をつくり出す機能により、安定した電力供給を実現することが期待されています。
田邉 インバータ開発は、転換点を迎えつつあると感じています。例えば、今までは標準品を大量に生産することが求められていましたが、これからはオプション品を準備するよりは、最初からバリエーションをつくることへのニーズが高まっているのではないでしょうか。
私たちには、「SFC-T5」の市場投入以来、開拓者精神とともに積み重ねられてきた多くの技術資産があります。今後の新たなインバータ技術の開発にあたっては、先輩方が残してくれた膨大な技術資産を大切にしつつ、独自のアイデアや創造性を活かした次世代のインバータを開発し、発展させていきたいと考えています。

WJ-C1インバータ組立ライン

手はんだ付 修正ライン

インバータ専用品の組立

1人組立デジタルセル生産

出荷前のWJ-C1完成品(上)
プリント基板実装ライン(下)

SJ-P1インバータ組立ライン

自動ワニス塗布を紹介する見学者用モニタ




製品の詳細や導入に関するご相談はこちらから
( vol.147・2026年7月掲載 )







