清水事業所

2002年4月、日立製作所から分離・統合し、日立産機システムの空気圧縮機の専門事業所としてスタート。新しいコンセプトの空気圧縮機を開発・設計・生産しています。

画像: 所在地 〒424-0926 静岡県静岡市清水区村松390

所在地 〒424-0926 静岡県静岡市清水区村松390

画像: 油冷式スクリュー空気圧縮機 Gシリーズ(11/15kW)の設計プロセスを振り返る角(左)と山本(右)

油冷式スクリュー空気圧縮機 Gシリーズ(11/15kW)の設計プロセスを振り返る角(左)と山本(右)

モノづくり現場の リアルなニーズに応えた新製品の誕生

 「油冷式スクリュー空気圧縮機 Gシリーズ(11/15kW)」(以下 本製品)の受賞は、2019年に発売を開始した「油冷式スクリュー空気圧縮機 Gシリーズ(22/37kW)」の同賞受賞に続くもので、この分野における当社の強みをいかんなく発揮した結果といえます。油冷式スクリュー空気圧縮機の開発を専門とする当社グローバルエアパワー統括本部グローバル開発統括部清水開発設計部に所属する技師の角知之と山本健太郎が、今回の受賞の意義を語ります。

 「NEXTシリーズと呼ばれる従来の出力11/15kWのクラスは、多くの中小規模の工場でお使いいただいているいわばベストセラー製品です。同クラスの新製品、特にVタイプ(可変速タイプ)の開発においては、空気圧縮機の心臓部であるエアエンドや駆動系などを一新し、吐出し空気量を大きくアップして、省エネ性能を高めることができたことがまず一番の受賞理由です。モノづくりを支える多くのお客さまの省エネニーズにお応えした製品として評価されたものと思います」と角が受賞理由を紹介しました。

 「空気圧縮機は、工場内で各種設備やエアブローなどへの圧縮エアーの供給に使うために、起動したら稼動し続けることも多いので、手間をかけずに省エネ運転を可能にしてほしいというのが多くのお客さまのご要望でした。それに加えて、メンテナンスにもあまり人手をかけることができないので、当社のIoT対応設備監視サービス『FitLive』に標準対応したことも、モノづくり現場のニーズに応えたものとして評価されたと思います。当社の空気圧縮機の多くは、すでにFitLiveサービスに標準対応していますが、24時間365日リアルタイムに稼動状況を遠隔監視できる機能を、生産台数が比較的に多い11/15kWにまで展開できたことで、たくさんのお客さまにこの製品が届けられることになります。自分の仕事の成果を見ていただける機会が増えることは、非常にありがたいですね。これまで私は、大きな出力の空気圧縮機の設計に携わっていたのでこのクラスの設計は初めてでしたが、意義ある賞をいただくことができて感激もひとしおです」と、山本も市場ニーズの視点から受賞の背景と喜びを語りました。

画像: 株式会社 日立産機システム グローバルエアパワー統括本部 グローバル開発統括部 清水開発設計部 技師 角知之(左) 技師 山本健太郎(右)

株式会社 日立産機システム
グローバルエアパワー統括本部 グローバル開発統括部 清水開発設計部
技師 角知之(左) 技師 山本健太郎(右)

従来機種を一から見直した 設計コンセプトとは

 本製品の開発にあたっては、1クラス上の油冷式スクリュー空気圧縮機 Gシリーズ(22/37kW)の設計思想を引き継ぎつつ、出力11/15kWの小型製品として心臓部となるエアエンドをはじめとする主要な部品を一から設計し、異なる市場ニーズに対応することとしました。

 開発がスタートしたのは、2018年。開発目標は、吐出し空気量を大きくアップすることと省エネ性能に直結する高効率性を両立させ、業界をリードする製品として世に送り出すことでした。また海外での販売に備えて、各国のエネルギー規制への対応も視野に収めていました。また前述のFitLiveサービスへの標準対応も、お客さまとの関係を深めることで将来のビジネスにつなげていくためには、極めて重要なミッションでした。

 角は、「本製品の開発目標を達成するためにはエアエンドを一新することが必要でした。新エアエンドの駆動については、従来機種のインダクションモータから、上位機種のようにPM(永久磁石)モータにすることで小型化・高速化にチャレンジすることとしました。これにより、ベルトを使わず、モータとエアエンドとを直結することで駆動時のロスをなくすことにも取り組みました」と語ります。

 「インダクションモータと比べて効率が良いPMモータを採用し、さらに伝達ロスの軽減のためエアエンドと直結するオーバーハング構造に変更しました。私は、このクラスの機種のエアエンドをゼロから図面を起こし、そこから設計を検討するという経験が初めてだったので、新鮮な気持ちで課題に向き合うことができました」と山本も開発の初期段階を思い起こします。

 一方、圧縮エアーを生み出すエアエンド内のスクリューは、信頼性、耐久性などの面で実績がある上位機種の設計思想を活かすこととしました。ただ歯形の形は一緒でも、サイズが小さくなった分、加工技術にはより高い精度が求められました。

 こうして心臓部であるエアエンドの設計が決まると圧縮機に必要なトルクも決まり、モータの仕様もおのずと導き出されます。駆動系の構想ができ上がると、次に取り組むのは熱制御系の設計でした。

画像1: 【日立産機の技術者たち】
一般社団法人 日本産業機械工業会 表彰 企画

バランスの良さを追求した熱制御

 空気圧縮機内の冷却系はCAE解析にてシミュレーションし設計の精度を上げます。従来機や上位機とは異なる新規の設計のため、これまでに蓄積したノウハウを活かすことはできるものの、乗り越えるべき新たな課題はいくつもありました。

 「熱くなった圧縮空気、潤滑油を冷やすためのクーラーを冷やすことはもちろんのこと、回転中のPMモータや電流によって発熱する始動盤も冷やす必要があります。冷却系とは、この3点をバランス良く、効率的に冷却するシステムのことです」と角。「この冷却系で大きな役割を果たすのが冷却ファンです。冷却ファンによってクーラー内の圧縮空気を冷やしますが、吐出し空気の温度に応じてファンの回転数を制御することでファン自体の動力を抑える必要があります。一方、PMモータには専用のファンがついておらず、クーラー を冷やすファンの風によってPMモータも冷やす構造になっています。吐出し空気の温度に応じてファンの回転数が落ちてくると、PMモータを冷やす能力も低下するので、そうならないような風の流れを設計し、クーラーを冷やしつつ、同時にPMモータも冷やすことができる冷却構造をつくることが難しいところだったと思います」と振り返ります。

 山本は、「ファンを駆動するモータの制御も重要な課題でした。ファンの動力をできるだけ減らすために回転数を制御しますが、回転数を変化させるとシステムのどこかが共振し、振動が発生しました。もちろん事前に解析にかけてシミュレーションを行いましたが、振動は予測することが難しく、トライアンドエラーを何度も重ねて振動問題の解決に至りました」と語ります。

 2018年、コンセプトづくりから始まった本製品の開発は、2019年の夏に試作機が完成。試作評価を経て、2021年4月から量産へと移行していきました。この間、角と山本を支えてくれたのは設計部の解析グループです。解析グループはモータに起因する振動、圧縮エアーや熱の流れの流体解析などに関する膨大なデータを蓄積し、解析精度を高めることで、空気圧縮機の開発設計を支えてきました。「設計グループと解析グループが一体となって開発のスピードアップと精度向上を図り、当社の強みを高めてきたと思います」と角はいいます。
 

画像2: 【日立産機の技術者たち】
一般社団法人 日本産業機械工業会 表彰 企画
画像1: バランスの良さを追求した熱制御

吐出し空気量アップと省エネを両立させたエアエンド

新エアエンドの採用により、エアエンド内部での圧縮効率を向上し、さらに高効率化を図りました。従来機HISCREW NEXTⅡ seriesに対して、定格運転時の吐出し空気量を最大9.3%アップしました(0.83MPa時、15kW機)。またPMモータ採用により従来機に対して電力費低減を実現しました。

画像3: 【日立産機の技術者たち】
一般社団法人 日本産業機械工業会 表彰 企画
画像2: バランスの良さを追求した熱制御

 

画像3: バランスの良さを追求した熱制御

油冷式スクリュー空気圧縮機の構造

空気圧縮機は、①空気を圧縮するエアエンドとそれを駆動するモータ、②潤滑油をためるオイルケース、③圧縮空気内の潤滑油を分離するオイルセパレーター、④高温となった潤滑油や圧縮空気を冷却するクーラーと冷却ファンなどの冷却系、⑤圧縮空気の水分を除去するドライヤー、⑥これらの機器の電源の供給や制御を行う電気盤などで構成されています。心臓部であるエアエンドは、オスとメスの2つのスクリューで構成されたローターとそれを囲うケーシング、それを支えるベアリング、さらにベアリングを囲うケースなどで構成されています。

画像4: バランスの良さを追求した熱制御

グローバルな市場で評価される 空気圧縮機をめざす

 国内市場では広く「空気圧縮機の日立」として知られていますが、角と山本は、現状に満足することなく今後の製品展開についても思いを馳せています。「日本では、油冷式空気圧縮機もオイルフリー空気圧縮機も、当社の製品ラインアップはお客さまニーズに応えることができていますが、グローバル市場に向けては検討の余地があるかもしれません。米国で空気圧縮機事業を手掛けるサルエアー社を買収して以来、工場間での共同プロジェクトなどの交流が始まってきたこともあり、私達もグローバル市場の視点から空気圧縮機の設計コンセプトを検討する機会が増えてきました」と角。「世界市場での位置づけを意識した空気圧縮機の開発が求められるようになってきましたね」と山本も語ります。

 当社にとって空気圧縮機はモータに次ぐ歴史があります。一方、清水事業所をはじめとする空気圧縮機の生産開発拠点には、チャレンジ精神に満ちた設計者が多いのも強みです。本製品も空気圧縮機の心臓部の設計を一新しましたが、これ以前のシリーズでもモデル更新時に常に新たなコンセプトの実現に挑戦してきました。

画像: 清水事業所ショールームに設置されたスクリューのカットモデル

清水事業所ショールームに設置されたスクリューのカットモデル

 当社では、2022年度から“Working Together”というカルチャートランスフォーメーションをめざした活動を展開しています。空気圧縮機の開発・生産・販売のグローバル化の議論を深めるためにも、企業文化の変革が大切だと考える角は、「設計や解析、営業や企画という組織にかかわらず、とにかく集まって一緒になって議論を重ねていきたいですね。そして、お客さまとのつながりをさらに深めることで、新たなビジネスチャンスにつなげていきたいと考えています」といいます。山本は、「意欲的にやりたいと思ったことはどんどんチャレンジして、グローバルな市場で戦える製品を生み出す設計者に成長したいと思います」と、決意と抱負を語ってくれました。

 省エネ性の高さや操作性などの機能、耐久性や信頼性、メンテナンス体制への信頼感など、多くの面で強みを持つ当社の空気圧縮機。これからは、さらに内外の市場をリードする製品づくりに挑戦していきます。

画像: 油冷式スクリュー空気圧縮機 Gシリーズの部品組立工程

油冷式スクリュー空気圧縮機 Gシリーズの部品組立工程

画像: ほぼ完成した油冷式スクリュー空気圧縮機 Gシリーズ

ほぼ完成した油冷式スクリュー空気圧縮機 Gシリーズ

画像: 出荷を待つ油冷式スクリュー空気圧縮機 NEXTⅢシリーズ(手前)とGシリーズ(奥)

出荷を待つ油冷式スクリュー空気圧縮機 NEXTⅢシリーズ(手前)とGシリーズ(奥)

画像: 清水事業所がつくり出すさまざまな製品が並ぶショールーム

清水事業所がつくり出すさまざまな製品が並ぶショールーム

   

清水事業所のシンボル
現役最古、最長稼動の空気圧縮機

400HP(300kW)横型2段往復動圧縮機。
製造年:1938年、設置場所:日立金属株式会社(現 株式会社プロテリアル)安来工場様。
日立空気圧縮機の長い歴史と信頼性を象徴する現役最古、最長稼動の空気圧縮機として、日立製作所創業100周年に合わせて2011年に同社より譲渡していただきました。

画像4: 【日立産機の技術者たち】
一般社団法人 日本産業機械工業会 表彰 企画
画像5: 【日立産機の技術者たち】
一般社団法人 日本産業機械工業会 表彰 企画

基本性能と制御性能、耐環境性・信頼性がさらに向上

新時代を担う確かな技術と信頼性を兼ね備えたニューモデルのコンセプトは、世代(Generation)をつなぎ、グローバル(Global)に対応する空気圧縮機として、IoT技術を駆使することで、これからも絶えず成長(Growth)し続けることです。

吐出し空気量をアップ [ Vtype ]
ロータプロファイル(歯形)をさらに進化したエアエンド搭載。従来機に対して吐出し空気量を最大9.3%アップしました。

オールインワン構造 [ Vtype ]
高効率PMモータとエアエンドを直結し、伝達ロスをなくしました。さらにオイルセパレーターとも一体構造化することで接続配管をなくし、圧力損失によるエネルギーロスも最小にします。PMモータにはアルミハウジングを採用し、従来機に対し冷却効率をさらに向上しました。

ピークカット機能 [ Vtype ]
工場内での電力使用量が高い場合、ピークカット機能により運転を停止することなく電力を一時的に低減し、全体の使用電力を抑えることができます。

非常停止スイッチを標準化 [ Vtype ] [ Ftype ]
前面に装備された非常停止スイッチにより、万一の時には素早く停止。安全性を確保します。

エネルギー効率を改善 [ Vtype ]
圧縮機本体の高性能化と永久磁石モータの高効率化により、従来機に対して電力料金低減を実現しました。新型機では全負荷の場合、可変速機にて5%エネルギー効率が改善しています。

画像6: 【日立産機の技術者たち】
一般社団法人 日本産業機械工業会 表彰 企画

ヒートセーフティーモード [ Vtype ]
常に高周囲温度下にある設置環境にて運転が想定される場合、周囲温度に応じて吐出し空気量を減少させ、機器構成部品の劣化を抑えながら、安定的な空気供給を行う機能としてヒートセーフティーモードが有効です。

( vol.128・2023年5月掲載 )

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