1978年4月 日立工業専修学校に入学。1981年3月 日立製作所 国分工場配属。
国内原子力・火力発電所や海外発電所、交通、上下水道などの公共分野や他産業分野向けの配電盤・制御盤の組み立て作業において卓越した技能を有する。盤に内蔵される器具と導体類の絶縁距離の調整法や特殊技能による作業方法の確立、さまざまな治工具の考案により生産性と信頼性向上に大きく貢献したことなどが評価され、2023年秋、黄綬褒章を受章。
受変電事業を展開し、
産業と公共インフラを支える勝田事業所
発電所でつくられた電気は送電網を経て送られ、受電した電気は用途に応じて電圧を変換され、工場やビル、家庭などで利用されます。配電盤・制御盤(以下、盤)は、この受電から配電に至る流れを監視・制御し、安全で安定した電力供給を支える重要な装置です。当社の勝田事業所では、電力エネルギーを根幹から支えるさまざまな盤を設計・生産しています。
研ぎ澄まされた技能が活きるオーダーメードのモノづくり
佐川宏智は、入社以来、盤を組み立て、部品を取り付け、複雑な配線を施し、設計図に表現できない装置の調整や最終の動作試験までを行う高度な技能者として、これまで多くの盤を社会に送り出してきました。
「標準的な盤は、幅700mm、奥行1,400mm、高さ2,300mmの鋼板製の筐体の中に、電流や短絡、漏電を検知して自動的に回路を切る遮断器、それを制御する機器が収められた制御室、電源からの電気が流れる母線室、負荷側に電気を分配するケーブル室などによって1面が構成されます。この構成を基本として、お客さまの施設の種類、使う電気の電圧や電流、設置スペースや設置環境などに応じて1面1面がオーダーメードで設計され、勝田事業所 製作課のスタッフがその設計図通りにつくり上げます」と盤づくりを紹介する佐川。驚くことに技能者は、一人で500本ほどの配線で遮断器や制御リレー、保護リレー、変圧器などの数多くの部品や装置を正確につなぎ、約半日で1面を完成させる力があるといいます。「私の若い頃と違い、組み立て作業の分業化や効率化が進みましたが、それでも世界最大級の石油精製工場向けシステムのような大規模な案件では、100面を超える盤を納入する必要があるので、現場はフル稼働です」と言います。

遮断機を制御するための盤である高圧スイッチギヤ
盤の組み立て・調整における優れた技能者とは

黄綬褒章のメダルと賞状
卓越技能者(現代の名工)として認められた佐川にとって、一流の技能者であるための条件とは何でしょう。「設計図を見て、その通りの製品をつくることができる。これは当たり前のことです。技能を高めるとともに、勉強を重ねないと優れた技能者とは言えないでしょう。さらに、勉強したことで満足するのではなく、『資格は技能の証』という言葉を念頭に置いて、学んだ力を形に表し、証明するためには、国家資格を積極的に取得すべきだと考え若い頃から実践してきました」と力強く語ってくれました。
技能を高めることは当然のこととして、どこまでも専門知識を学ぶことを大切にする佐川の生き方を方向づけたのは、現場に配属されて間もない21歳から23歳の頃に、数多くの現場で試運転業務を担当したことです。「試運転業務は、新設もしくは改修・更新された盤に通電し、実際に遮断器などを作動させることで、設計通りの機能を果たすことができるかどうかを確認することです。大きな工場の受変電・配電システムや鉄道変電所をはじめ、58ヵ所の試運転業務を経験しましたが、忘れることができないのは日本を代表する製薬メーカー様の主力工場でのことでした」と佐川は振り返ります。
この時は規模が大きなシステムだったため他社メーカーも参入していたので、若い佐川は、経験豊富な他社のエンジニアと伍して試運転業務にあたらなければなりませんでした。「技術力で劣っていることをカバーするために、試験の前日は作業内容を徹底して整理し、どういう試験をどういう手順で実施すべきか、そのためには何を準備したら良いのかなどを、連日深夜過ぎまで研究しました。誰がどんな質問をしても必ず答えられるようにしようと決め、必死になって準備したことがその後の成長にとって大きな糧となった気がします」と語ってくれました。

導体の接続部を規定トルクで締め付ける
設計図には表現しきれない盤づくりの難しさ
盤づくりは設計図を理解し、配線や部品を立体的に配置した構造として捉えることから始まるといいます。佐川は、「経験を重ねると、立体的な設計図が頭の中に浮かんできます。経験が浅い頃は、設計図に集中し、どんな部品をどこに取り付けるのかを一つひとつ図面に沿って順番に潰していくしかありませんが、丁寧で正確な仕事ができれば大丈夫です。難しいのは、設計図に描かれていない作業です。例えば、遮断器を挿入した際に主回路接触子にかかる摩擦力や、断路器の「入」「切」にかかる摩擦力を調整するには熟練技能者の経験と感覚が必要です」と言います。「さらに、おびただしい配線の束がすっきりときれいに収まっているといった仕上がり外観にこだわることも、設計図に落とし込まれていない品質向上に関わる作業です」。

配線の仕上がりが美しい
佐川が製作した国家技能検定実技課題

コードの絶縁被覆をはぐ作業
後進を育成し、
可視化できない知と技術を継承する
近年、国内では30〜40年前に設置された盤の更新需要が増加していますので、電力の安定供給を守り続けるためには、人材の育成や品質向上と生産リードタイムの短縮を両立できる作業の効率化が求められています。
これまでにも佐川は、黄綬褒章の授賞理由にもなった作業の安全性と効率性に寄与する専用工具や調整用工具の開発、作業動線の変更などを実現してきました。加えて近年は、身に付けた専門知識や、伝えることが難しい設計図の読み解き方、調整のコツなどのノウハウを作業手順に落とし込んだり、新しいアイデアを活かした作業の標準化に力を注いでいます。
佐川をはじめとする勝田事業所の技能者は、国内外のお客さまの施設に設置された当社製品の定期点検や改修工事、事故復旧などを担うエンジニアとして、学んだこと、感じたことが多くあります。
「福島第一原子力発電所の電源復旧作業でも痛感したことですが、私たちには社会全体を支える電力インフラをつくり、守り続ける大切な使命があります。今後も、誇りをもって社会的な責任を果たしていきたいと考えていますし、後進にもその使命感を共有していただきたいと願っています」と熱い思いを披れきしてくれました。

勝田事業所の技能者は、互いに協力し合いながら、自身のモチベーションを高く保って盤づくりに取り組んでいます。めざすのは、お客さまから永くご信頼をいただける製品づくりと、社会を支えるエンジニアとしての誇りをもって、さらに成長していくことです。

製作課の皆さん

次代に伝える誇りある仕事
株式会社 日立産機システム
受変電制御システム事業部
製造部 製作課 主任 菅野裕司
![画像1: 【誇りのマエストロ】
[4]佐川宏智 〈勝田事業所〉
配電盤制御盤組立調整工
卓越技能者(現代の名工)、国家技能検定委員
電力の安定供給を支え続ける
受変電制御システムの担い手](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783708/rc/2026/08/17/22abd290278e2096665790436f1b67e7abfeefb2_xlarge.jpg)
現在は勝田事業所の製作課全体を統括しています。入社以来、佐川さんは常に目標にすべき存在でした。特に佐川さんの配線の仕上がりの美しさには、いつも感動していました。国家資格の取得を重視されていたので、私も資格取得に励み、今は後進の資格取得を応援しています。電力の安定供給を支える仕事を誇りとし、佐川さんの技能を研究し、次世代に継承していきたいと思います。

図面を見ながら菅野(右)と打ち合わせを行う

目に見えない技術資産を形として残す
株式会社 日立産機システム
受変電制御システム事業部
製造部 製作課 主任 佐藤雄祐
![画像2: 【誇りのマエストロ】
[4]佐川宏智 〈勝田事業所〉
配電盤制御盤組立調整工
卓越技能者(現代の名工)、国家技能検定委員
電力の安定供給を支え続ける
受変電制御システムの担い手](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783708/rc/2026/08/17/8958bb82f6a612097bea1a4c38e217059c17d7f5_xlarge.jpg)
盤生産に関わる佐川さんの技術、技能を形として残すために、モノづくりの社内規格・標準づくりや技術資料の整理などを、佐川さんに教えていただきながら一緒に進めています。この作業は過去を振り返るためのものではなく、将来に向けた業務改革や技術革新の基礎となるものであり、お客さまに満足していただける品質につながることを確信しています。

製造技術係のオフィスで佐藤(右)と打ち合わせを行う

2016年に日立製作所などから産業向け受変電事業を移管され、日立産機システム勝田事業所として再編、発足。受変電設備や配電盤など電力インフラ関連製品の設計・生産を担ってきました。現在は、産業分野や社会インフラに向けた受変電制御システムやエンジニアリングの提供を通じて、安定した電力供給の実現に貢献しています。
所在地 茨城県ひたちなか市大字足崎字西原1450
主な製品 受配電・制御システム(高圧受電盤、発電機制御盤)、
発電・送電・変電システム(制御装置、保護継電装置)ほか

受配電盤組立ライン
■ 勝田事業所受変電システム訓練校
(通称: 勝田トレスク)
勝田トレスクでは、受変電設備の運転・保守に必要な原理原則を解説するとともに、実機や模擬装置を使った体験・研修を通じて実践的なノウハウの習得をめざしています。佐川は、「現地想定訓練」や「電気取扱特別教育」などの講師を長く務め、中でも「現地想定訓練」では、延べ3,000名もの受講者が電気の安全をいかに守るかについて学んできました。

勝田トレスクが誇る研修設備(左上、左中)
社内教育(座学)(左下)
佐川による講習(右)
( vol.148・2026年9月号掲載 )



