指導員の田口(左)に指導を受けながら難易度の高い円形の曲げ加工に取り組む伊藤
第62回技能五輪全国大会(2024年11月22~25日 会場:愛知県国際展示場ほか)の「構造物鉄工」職種において見事に銀メダルに輝いた、当社 勝田事業所に所属する伊藤光希。喜びに浸る間もなく、技能五輪国際大会の出場資格を得るため、次の全国大会での金メダル獲得を目標に掲げ教育訓練センター(日立製作所 日立事業所)で新たな挑戦を始めています。
画像1: 【特集 技能五輪】
技能五輪にかける、若き技能者の挑戦と成長。

日立産機システム
受変電・配電システム統括本部
受変電制御システム事業部
製造部
伊藤光希(2023年入社)

「構造物鉄工」職種で日本一になるために選んだ道

 技能五輪全国大会(以下 技能五輪)は、一つの技能を極めたいとの熱い思いとともに身につけたスキルを高いレベルで競い合う、モノづくりを担う若手技能者(原則23歳以下)たちの晴れ舞台です。伊藤は、入社した2023年に無我夢中で技能五輪に初挑戦した経験を活かし、2024年には、二度目の出場で銀メダルを獲得することができました。技能五輪の競技職種は伊藤が参加した「構造物鉄工」などの金属系をはじめ、機械系、建設・建築系、電子技術系、情報通信系、サービス・ファッション系の41職種と多岐にわたり、唯一の世界レベルの技能五輪国際大会(隔年開催)が開催される前年の大会は、国際大会に出場する選手を選考する場でもあります。

 「技能五輪のことは、日立工業専修学校溶接科在学時から、多くの先輩たちが挑戦していたので知っていました。日本一の技能者をめざして本気で取り組もうと考えたのは2年次の終わり頃、卒業後の進路を考える中で技能五輪への思いが徐々に強くなりました。頑張り続けないとできないことなので悩みに悩みましたが、『構造物鉄工』職種で挑戦することとし、就職先は身につけた技術を活かすため、受変電・配電システム事業を手がける当社の勝田事業所に決めました。決意した後は迷うことは一切ありませんでしたね」と伊藤は振り返ります。若くして高い目標を掲げることができたのは、家族の応援、恩師や先輩の熱いアドバイスがあったからです。

選手と指導員が一体となって「構造物鉄工」を極める

 伊藤が配属された勝田事業所には、技能五輪に参加する選手と指導員を応援する環境が整っています。製造部 製作課 課長の森園竜浩は、「技能五輪に特化した長期間の訓練は、若い技能者が大きく成長できるチャンスなので事業所をあげて応援しています。モノづくりの現場を任された者として、彼らが成長して職場に戻ってくることが何よりも楽しみです」と語ります。また選手の指導とともに指導員の育成を担うのは、技能五輪で優勝した経験があり、後に日立グループで最高位の作業者として金バッジを授与された「工師」であり、「現代の名工」にも選ばれた清水頭孝悦(しみずがしらたかよし)です。「技能五輪への挑戦は技術力だけではなく、どんな現場でも通用する創意工夫する力を育ててくれます。したがって、技能五輪への挑戦は当社のみならず、日本のモノづくりにとっても大変重要な機会だと思っています」と、その意義を語ります。しかしやる気に満ちた若い技能者にとっても、技能五輪に挑戦し、厳しい審査基準をクリアする力を身につけるまでには想像を超えた大変さが伴います。

画像: ボール盤で孔開け作業の訓練を重ねる伊藤

ボール盤で孔開け作業の訓練を重ねる伊藤

 「構造物鉄工」とは、建築物や機械設備などのさまざまな構造物の目的や形、材質の特性に応じて、課題として出される図面が要求する品質を満たした鋼構造物を製作する技能です。設計の意図を読み解き、鋼板に現図を描き、切断、孔加工、曲げ加工、溶接などの工程を重ね、完成させるものですが、評価される作品に仕上げるには高い精度の加工技術が求められます。「溶接については学生時代に学びましたので、ある程度の自信はありましたが、技能五輪では溶接によって溶けて固まった部分の幅、肉の太さが適正かどうか厳しく問われます。一番の違いは、学校ではしっかりと溶接をすることが重要でしたが、技能五輪における溶接は電流や電圧を低くして、細く真っ直ぐ溶接を置くことが求められることです。これで溶接の強度と仕上がりの美しさといった品質が決まるからです」と伊藤が説明すると、指導員の田口祐成は「課題に応じて異なりますが、曲げ加工も大変です」といいます。「私は体重が重いので曲げ加工が得意ですが、伊藤さんは体重が軽いため火を少し強めに入れないときれいに曲がらなかったりします。その場合、バーナーをどれだけの強さでどれだけの時間当てたら良いかは、マニュアルがあるわけではないので、炎の色と熱くなった鋼板の色を見て判断できる経験値が必要です。しかも季節によって室温が異なるので、それも考慮して色の変化を読み取れるように訓練を重ねる必要があります」。

画像: 田口から読図の指導を受ける

田口から読図の指導を受ける

国際舞台で戦うために、さらに高いレベルをめざす

 伊藤は現在、第63回技能五輪(2025年10月17〜20日 会場:愛知県国際展示場ほか)で金メダルを獲得し、第48回技能五輪国際大会(2026年9月22~27日 開催地:中国・上海)への出場権をつかみ取るために、教育訓練センターで基礎の反復練習と応用力の向上に取り組んでいます。「金メダルをめざすことは昨年の大会後に決めたことではありません。競技中に自分の力をまったく発揮できていないことへのもどかしさを感じ、もう一度挑戦しなければ前に進めない、と思ったからです」と語ります。

 清水頭は、「技能五輪で問われるのは、第一に図面を読み解く力です。次に、鋼板をガス切りする際に誤差を±0.3mm以内におさめる力が必要です。いくつかの部品を使って組み合わせていくので、まず切断時の精度が重要だからです。また曲げ加工では、正確な角度でねじれがないようにきれいに加工できる力が必要です。こうして、一つひとつの部品を正確につくり上げたら、最後に組み立てる力が物をいいます。組み立てた時の高さや長さ、全体の仕上がりの美しさなどが厳しく審査されますので、仮に部品単位の誤差があっても、全体として誤差が出ないように調整する力をさらにレベルアップする必要もあります」と伊藤の今後の課題を語ります。

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日立産機システム
受変電・配電システム統括本部
受変電制御システム事業部 製造部 製作課
課長 森園竜浩

 伊藤のラストランを伴走する田口は、「私が選手の時は銀メダルで終わり本当に悔しかったし、日本一になるまでの厳しさは分かっているので、絶対に勝てるという自信を持てるように、日々の訓練から完璧をめざしてサポートしたいと思っています。基本的な力はすでに身につけていますので、作品の見栄えを向上させるための細やかな配慮ができるような指導をしたいと考えています。一つひとつの工程の先の先まで読んで作業することができるようになれば、おのずと結果はついてくると思います。審査基準には数値化できない要素も含まれています。完璧に近い作品をつくることができるよう、さまざまな観点から試行錯誤を重ね訓練の質を高めていきます」と頼もしい言葉で応えてくれました。「最近は作業をしていても先が読める感覚があり、成長を実感できるので、厳しい訓練も楽しめるようになってきました。昨年は大会本番では楽しめませんでしたが、今年は実力を完全に発揮し、競技を楽しみたいと思います。そして日本一を取って、これまで応援していただいた方々に喜んでいただけるよう、さらに自分に厳しく訓練を重ねていきます」と決意を表明する伊藤。

 二人をサポートする森園は、「銀メダルに満足することなくまたチャレンジしたい、といってくれた伊藤さんと指導員の田口さんの気持ちに応えて、全力でバックアップをしていきます」と、熱く語ってくれました。

画像: シニアマイスターの清水頭と前回大会で使われた図面を見ながら振り返る

シニアマイスターの清水頭と前回大会で使われた図面を見ながら振り返る

画像3: 【特集 技能五輪】
技能五輪にかける、若き技能者の挑戦と成長。

技能五輪全国大会とは

技能五輪全国大会は、国内の青年技能者(原則23歳以下)を対象に、技能競技を通じ、青年技能者に努力目標を与えるとともに、技能に身近に触れる機会を提供するなど、広く国民一般に対して技能の重要性や必要性をアピールし、技能尊重機運の醸成に資することを目的として実施する大会です。(出典: 中央職業能力開発協会HPより)

「構造物鉄工」職種は2日間10時間にわたり競技が行われ、以下の採点項目で評価されます。

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技能五輪にかける、若き技能者の挑戦と成長。

( vol.141・2025年7月掲載 )

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