
受配電・変電システムを守るHy-VCBとは
菅井 受配電・変電システムは電力会社から工場やビルなどに送られてくる電力を安全に受電、変圧し、負荷側に配電するための、絶縁開閉装置、変圧器、配電盤や監視制御装置などで構成された重要な設備です。中でも絶縁開閉装置と配電盤の中心的な機器である真空遮断器(VCB : Vacuum Circuit Breaker)は、短絡などによる事故電流を極めて短時間のうちに真空中で遮断し、高圧電気設備や回路の健全性を守るという大変重要な役割を担っています。
Hy-VCBの最大の特長は、ばね操作式のVCBと異なり、電磁石と永久磁石を組み合わせたシンプルな機構で回路の開閉を行うことです。電磁石と永久磁石を組み合わせたハイブリッド電磁操作器は、電磁石を永久磁石と同方向に励磁し、強力な磁気駆動力で閉路したら永久磁石の吸引力により閉路を保持します。Hy-VCBは、この動作原理により部品点数を従来の電動ばね式VCBより86%減と大きく減らすことができました。またグリースを使わないので、グリース起因の故障もなく、メンテナンス性も飛躍的に向上するので、お客さまにとって普通点検、細密点検に要する総点検費用は約3分の1に低減できます。さらに、キュービクルが必要とする電力を小さくできるので、直流電源用蓄電池の小型化によりコストダウンも実現しました。

株式会社 日立産機システム
受変電・配電システム統括本部
受変電制御システム事業部
開閉装置システム設計部
開発グループ グループリーダ主任技師 菅井大介
入社以来Hy-VCBの開発を手がけ、
既存製品のバージョンアップや
新製品の設計を担う。

受変電制御システム事業部 開閉装置システム設計部
多くのお客さまにご採用いただいたHy-VCB
野澤 2003年に販売を開始して以来、20年以上が経過しました。多くのお客さまから「日立産機システムのHy-VCBは、20年使っても安心・快適ですね」と、高い評価をいただいています。累積出荷台数も着実に伸びており、更新推奨寿命の「20年」を超えた今、実際に多くのお客さまが、ほぼトラブルなくご使用いただいていることが実証されたと感じています。
Hy-VCBの長所として、「引出式」という構造も強調したいと思います。遮断器には「引出式」と「固定型」の2種類があり、固定型は安価という利点はありますが、当社の引出式Hy-VCBは、メンテナンス性が極めて高いといえます。固定型では、ボルトで本体を盤に接続する必要がありますが、引出式は車輪付きなので固定枠から簡単に手前に引き出せるため、保守作業が格段に効率的になります。
このように、省メンテナンス、省電力、高信頼性を実現したことから、Hy-VCBは病院、大学、研究機関など、長時間の停電が許されない施設で多く採用されています。また、自動車関連をはじめとする大規模な工場やインフラ施設でも多くのお客さまにご使用いただけ、特に信頼性を重視されるお客さまからの支持をいただいていると実感しています。

出荷を待つHy-VCB
近年では、他社製品からの切り替えニーズも増加しており、特にグリースに起因する故障をきっかけに、当社製品を採用していただくケースも多くなっています。また、Hy-VCBは日立製の旧型VCBの固定枠と互換性があるため、既存設備の更新需要にも柔軟に対応できます。今後も、お客さまの現場の見えないニーズを汲み取ってさらなる市場開拓に活かしていきたいと考えています。
菅井 販売開始から20年以上を経て、お客さまから確かなご信頼をいただいていることから、当社のシンプルな設計コンセプトに先見性があったといえます。2003年には、定格電圧7.2kV、定格電流600A、定格遮断電流12.5kAの小型機種を皮切りに開発を開始し、その後ラインアップを拡充。現在では、定格電流3000A、定格遮断電流40kAに対応できる機種まで揃えています。また2017年には20%の小型化を実現したNew-Hy-VCBを開発しました。これは従来の同等機種と比べて28kgも軽い製品です。
電気設備業界では、今後、社会全体が高齢化し、生産人口も減少する中、遮断器の保守や管理に関わる技術者はさらに限られていくと予想されます。これまでもメンテナンス性の向上には注力してきましたが、今後はスマート保安という視点で、人手に頼らずに運用・保守ができる仕組みの開発が重要だと考えています。「産業を支えるプロダクトと革新的なソリューションで、お客さまとともに、サステナブルな社会を拓きます」という当社のパーパスのもと、今後もさらに受配電・変電システムの安全性をリードする製品の開発を推進していきます。

株式会社 日立産機システム
受変電・配電システム統括本部
受変電制御システム事業部
開閉装置システム設計部
部長 藪雅人
Hy-VCBの開発や
そのリビルト事業を統括する。



お客さまの停電時間短縮に貢献するHy-VCB リビルト事業
日立産機システムではHy-VCBの点検に代えて、リビルトプロダクツに入れ替え・試験するだけで完了する新たなメンテナンスをご提案しています。これは、Hy-VCBの点検や更新の際に長時間かけて点検するのではなく、事前に回収したHy-VCBを新品同等の信頼性を確保したリビルトプロダクツとして再生し、活用する国内メーカーでは初のメンテナンスソリューションです。
リビルトプロダクツがもたらすお客さまメリットとは
迫田 当社では、2023年の5月からHy-VCBのリビルト事業をスタートさせ、点検や更新時に長時間停電させることが難しいお客さまに、短時間でHy-VCBのリビルトプロダクツに入れ替えるメンテナンスソリューションをご提案させていただいています。入れ替え作業は、Hy-VCBの細密点検を実施する際に電気設備を停電させHy-VCBを配電盤から一度外に引き出して点検をする代わりに、新品同等のリビルトプロダクツと入れ替え、保護連動試験をするだけで完了します。
従来、6年ごとの普通点検では1台で90分、12年ごとの細密点検では120分かかっていたところを、リビルトプロダクツをお使いいただければ、1台につき15分の停電を伴う入れ替え作業のみで済みます。この15分で既設のHy-VCBを盤外に引き出し、リビルトしたHy-VCBを実装することができるわけです。その後は保護連動試験により確認して復旧するだけです。外して入れるだけで完了する更新作業は、わずか15分で高圧の電気設備の健全性を確保することができます。

株式会社 日立産機システム
受変電・配電システム統括本部
受変電制御システム事業部
開閉装置システム設計部
器具設計グループ 技師 迫田幸太
Hy-VCB受注後の
部品・材料、生産などの手配などを
担うとともに、Hy-VCBの
リビルトプロダクツを生産する。
野澤 既設のHy-VCBを点検時にお客さまから回収し、整備・試験を経てリビルトプロダクツとして再生し、次のお客さまにHy-VCBの点検時に使っていただくというビジネスモデルは、まさにサーキュラーエコノミーへの貢献そのものだとの社内の機運も醸成され、事業化が決まりました。
実際の事業化に向けた課題としては、品質第一を実現するために、お客さまの現場から戻ってきたHy-VCBを再び使う上で、どの部品は交換しなければいけないのか、高い耐久性を持った部品を再使用するためにはどのような品質検査や試験が必要なのか、その検査基準はどのように設定すべきなのか、などを品質保証部と慎重に検討しました。その結果、Hy- VCBの心臓部である真空バルブなどの中枢部品を、新品の出荷時と同等のマグネトロンの信頼性試験を行うことで健全性を確保することとしました。
現在は1本1本の真空バルブを引き出して検査していますが、将来的にはこの検査工程を効率的に行う技術を開発したいと考えています。
また、価格の設定や市場ニーズの確認についても全国の営業スタッフにヒアリングを行うとともに市場調査を行い、事業計画を何度も検討しました。こうしてリビルト事業が始まるまでは、勝田事業所の設計・製造部門と全国の営業部門との橋渡しが私の使命となっていました。

株式会社 日立産機システム
セールスエンジニアリング統括部
コネクティッド機器エンジニアリング部
コネクティッド機器グループ 技師 野澤俊成
品質保証部において
DR(デザインレビュー)、開発試験、
出荷試験に関わってきた経験を活かし、
Hy-VCBのリビルト事業を推進する。

回収したリビルト前のVCB

必ずニーズがあると確信したリビルトプロダクツの可能性
迫田 Hy-VCBは、グリースレスでシンプルなハイブリッド機構という設計コンセプトが、そもそもリビルトプロダクツに適していたといえます。部品点数が少ないので、交換しなければいけない部品は制御基板やコンデンサ(2019年製以前)だけで、永久磁石や電磁石、グリースレス化に伴うドライベアリング、電気をためるコンデンサなどは長寿命品だから交換不要です。また筐体は塗装やメッキにより耐久性を高めます。
野澤 Hy-VCBのリビルトプロダクツの機能、品質には大きな自信があったので、市場ニーズをいかにつかむかというところでエネルギーを注ぎました。
最近は、リビルトプロダクツの導入や、お引き合いも増えていることから、長時間の停電が許されないお客さまにとって、最善のソリューションだと自信が持てるようになりました。また、中・長期的には電気設備点検を担う人が減っていくので、点検や整備の手間を減らすために、Hy-VCBがさらに必要とされると考えています。

図面を見ながら相談
迫田 当社のHy-VCBは今後もアップデートしていきます。スマート保安のために電気設備にも進化が期待されています。お客さまにとっては、既設のHy-VCBをリビルトプロダクツに入れ替えると、これまでより高性能になることが考えられます。お客さまは同じ製品を使い続けるのではなく、定期的にリフレッシュ、アップデートされたHy-VCBを使うことができるというメリットもアピールできます。
野澤 メンテナンスコストの平準化という面でも大きなメリットがあります。例えば、20年以上使っていて突然壊れた時に発生する経費は事前に予算化できませんが、6年もしくは12年ごとの定期的なリビルトプロダクツへの入れ替え費用は計画的に予算化できます。これは当社にとっても、リカーリングビジネス構築のチャンスでもあります。またリビルトプロダクツへの入れ替え作業の費用は、これまでの点検費用よりも安価になると思います。当社のリビルト事業を推進するためにも、より多くのお客さまにHy-VCBのリビルトプロダクツのメリットを広げていきたいですね。
迫田 生産現場としては、品質保証体制の充実、生産体制の整備などに取り組み、お客さまのご要望に確実にお応えできるようにしていきます。
菅井 社会の変化、お客さまの意識やビジネスの変化を先取りした新しいコンセプト、新しい技術を生み出し、リビルト事業の可能性をさらに大きく広げていきたいと思っていますので、ぜひご期待いただきたいと思います。

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( vol.141・2025年7月掲載 )